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2011年10月 6日 (木)

お久しぶりね

疲れた帰り道、この歌を思い出していた

お久しぶりね あなたに逢うなんて
あれから 何年経ったのかしら

岡山への日帰り出張の帰りだった
ただ疲れていた
体の芯から、心の底から疲れていた
その疲れを癒やしてくれる人が欲しかった


少しは私も 大人になったでしょう
あなたはいい人 できたでしょうね

エスニック料理屋の小さなテーブルを挟んで、
不思議な味わいを楽しんだ
端から見れば、恋人同士に見えたことだろう

お茶だけのつもりが 時の経つのも忘れさせ
別れづらくなりそうで なんだかこわい

酉の市に出かけた
切り山椒を買って、食べながら境内を歩いた
今思えば、いいデートだった

それじゃさよなら元気でと
冷たく背中をむけたけど
今でもほんとは好きなのと
つぶやいてみる

それでも、恋愛にまで至ることはなかった
大好きになった相手は、これからというときになると、
ことごとく牙を剥き、言葉の刃を浴びせてきた
そして、逃げるように去っていった

もう一度 もう一度生まれかわって
もう一度 もう一度めぐり逢いたいね

今、相手がどこで何をしているのか、何一つ判らない
そんな片想いばかりだった


お久しぶりね こんな真夜中に
あなたから 電話をくれるなんて

電話の向こうから、部屋の窓を閉める音が聞こえた
相手は、ベッドの上で携帯に話し掛けていた
これから恋が始まる、恋人同士の会話だと思っていた

おかしいくらい まじめな声で
私に迫るから 眠気もさめた

人生は短い、人生は一度きり
周りなど気にせず、心のままに生きて
そうやって生きられたら、きっとそれまでとは違う人生が始まる

もしも今でも一人なら 映画みたいな恋をして
愛を育ててみたいねと 笑ってみせる

それでも、相手が去ってしまえば、
残るのは、砂のように味気ない現実だけだった

それじゃさよなら これきりと
冷たく受話器を置いたけど
涙がしらずにあふれ出す
どうかしてるね

「私は強かった?
 いいえ、いつも揺れていたのよ・・・・」

もう一度 もう一度生まれかわって
もう一度 もう一度めぐり逢いたいね

もう一度 もう一度生まれかわって
もう一度 もう一度めぐり逢いたいね


(小柳ルミ子・1983年)



その日、私は食欲に救いを求め、赤暖簾をくぐった

いつも無口なラーメン屋のおやじが、私の顔を見て、


お疲れさん


と声を掛けた


何も言わず、ラーメンと、ビールを飲んで店を出た



あいよ、おまちどう、ありがとうございました

それ以外で、唯一聞いたおやじの声だった



店を出ると、夜の闇に雨が弱く降り注いでいた
見上げると、鈍い夜色の空に、無数の白い点が小さく光っていた


ラーメン屋のおやじに言って欲しい訳じゃないのに


足下に視線を落とした
靴の底で砂利が潰れて鈍い音を立てていた


その時、レコードを持っていたわけでもない20年近く前の流行歌を、
私は突然口ずさんでいた



不覚にも涙が零れた



あの日以来、そのラーメン屋の暖簾はくぐっていない
でも、あのおやじの一言は、いまでもありありと耳に残っている



15年ほど前の、誕生日の夜だった

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